県政150周年を記念して、「長崎県の未来」をテーマとして本県の未来の施策の参考とするため政策提言を募集したところ、県内外の各層の方からご応募をいただきまして、誠にありがとうございました。
審査委員会による審査の結果、受賞者が決定しましたのでお知らせします。
審査委員
委員長 平田 研(長崎県副知事)
委 員 菊森 淳文(ながさき地域政策研究所理事長)
委 員 中村 こずえ(長崎県中小企業家同友会代表理事)
委 員 小林 透(長崎大学副学長)
委 員 村野 麻梨絵(合同会社 te to ba代表 元地域おこし協力隊)
応募件数
20件
選定講評
平田 研 審査委員長
今回、本県の県政150周年を記念して「長崎県の未来に資する政策提言」をテーマとして政策提言を募集したところ、企業や大学、学生など各界、各層から計20件の本県の未来に関する様々なテーマでの提言の応募がありました。
応募者の皆様には、本県の未来のために、1万字程度とかなり文量が多い提言を作成していただきましたことに対しまして感謝申し上げます。
いずれも粒が揃った力作であり、本県の現状や課題を踏まえ、未来における長崎のまちや産業構造の変化等を示し、今後の県政の参考となる示唆に 富んだ提案も数多くありました。
審査委員会におきましても、いずれの作品も県民の皆様にとっても参考となる提言であり、本県に関する調査等も十分になされており、労力をかけて本提言の作成に真摯に向き合っていただいているとの評価で一致したところです。
特に、最優秀賞、優秀賞及び特別賞を受賞した政策提言は本県にとって今後欠くことのできない有用な視点を多く含んでおり、今回の政策提言が本県の更なる県勢浮揚に繋がることを期待しております。
最優秀賞
○タイトル 信用創造とFinTechを活用した新しい地域通貨の政策提言
○サブタイトル 小さな予算で大きな経済効果が実現可能
○氏名 代 表 者 氏 名 新川 佑亮
共同執筆者氏名 市川 将義
【提言要旨】
長崎県の抱える課題の多くは財政が豊かであれば解決しやすい。従って、経済を強くして税収を増やすことが豊かな未来に繋がると考える。経済を強くするには、1.県外にお金を流出させない、2.外需を獲得する、3.お金の流通速度を上げる、4.お金の量を増やす、5.滞留したお金を活用する、等の方法がある。これらの視点を同時に実現する地域通貨事業を提言する。
1.のためには、地域経済圏を構築することが有効である。スマートフォンの位置情報機能を活用することで、紙の地域通貨に比べてシンプル且つ 低コストで地域経済圏が構築できる。
2.を行うには、観光や留学・移住等の段階毎に県外住民に消費の誘因として地域通貨を付与することが有効だ。段階的に誘因を作ることで、消費拡大の導線や県外住民の属性を分析することが可能となる。
3.については、Fin Techにより可能となる。地域通貨を1ヶ月使用しない場合に残高を1% 減少させることで、消費を速める誘因をつくる。また、売買の際に売主と買主双方に取引額の1%分の地域通貨を還元することで、消費の促進を図る。
4.の実現には、信用創造の仕組みの応用が必要だ。地域通貨は円への換金を可能とするが、換金よりも決済手段としての使用が合理的と判断されれば地域通貨は転々流通することとなる。そして換金の需要が少なければ、流通している地域通貨と同額の支払準備金を用意する必要がない。つまり、地域通貨が転々流通するほど換金のための予算が少額になり、 一方消費は拡大されて大きな経済効果が生まれることになる。
転々流通した地域通貨は、一部の企業において滞留が起こることが想定される。そこで5.を実現するために、滞留した地域通貨と円を交換できる仕組みを作る。地域通貨を保有する一部の企業と住民の間で地域通貨と円の交換を行うことで、再度住民から企業へと地域通貨が循環する導線ができる。
以上の信用創造とFin Techを活用した政策により、最少の予算で最大の経済効果を生み出すことが期待できる。
【講評】
地域通貨については様々な方が提案をしているが、本格的にFinTechのツールを使用した地域振興の全体像を示したところが評価された。
電子決済の必要性は今後も増大することが想定されるが、導入に踏み込めない中小企業等の事業者側の決済手数料の問題についても導入企業側のメリットを提示するなど、事業者側の立場も考慮している。実現についても期待でき、今後の本県の政策の参考となりうる提言である。
○提言全文 最優秀賞全文[PDFファイル/85KB]
優秀賞
○タイトル 女性転出超過の解消に向けた提言
○サブタイトル 国内移住と女性活躍促進の観点から
○氏名 代 表 者 氏 名 高井 まなみ
共同執筆者氏名 小野 康介
坪谷ニュウエル郁子
【提言要旨】
長崎県においては、都市部への若年層の人口流出、特に女性の転出超過が拡大傾向にあることが重要な課題であると認識されている。そこで、課題解消に向けてどのように女性を呼び戻すか、どのように女性の活躍の場を提供していくかを示すことを本稿の目的とする。
女性の呼び戻しという観点からは、居住地選択の要因分析と教育移住という2つの軸で政策を提言する。まず、転出入に影響を与える要因を探り、自治体の政策としてどのような要素があれば転出超過を改善できる可能性が高いのかを調査した。文献調査から得られた重要な説明変数等を用いて、全国的な傾向と長崎県における転出入の要因を検証するために独自の分析を行った。その結果、転出超過の改善のためには容積率の上限の緩和や公共賃貸住宅や借り上げ賃貸住宅の拡充など賃貸住宅割合の増加に注力したほうが良いことが分かった。また、一般不妊治療に対する助成を他の市町でも実施することが有効であるという示唆が得られた。次に、子育て政策の一環として教育移住に関して事例の研究を行い、特徴的な教育のうちイエナとピースフルを長崎県で導入すれば効果が見込めると考えるに至った。イエナは過疎地にて1校のモデルケースから始めてその後数を増やしていくこと、ピースフルは保育園・幼稚園・小学校それぞれ数校ずつ、合計10校程度のモデルケースから始めて、最終的には全県に拡大していくことが望ましい。
女性活躍促進という観点からは、前提や長崎県の現状を把握したうえで、女性の活躍の場の提供するにあたって有効な施策とは何かを調査した。1.仕事と家庭を両立しやすい仕組みを作る、2.固定的役割分担意識をなくす、3.いったん離職した「妻」に「再就職」の枝が存在しない場合は、それを作ることが重要であることが明らかとなった。
【講評】
本県の最重要課題である人口減少問題について、女性の転出超過に着目して多くのエビデンスを用いて論理的に説明している点が評価された。
若年層の女性の県外流出がなぜ多いのかという人口減少問題の本質を捉えており、女性にとっての魅力がある街がどういったものであるかについての分析をしており、今後の本県の政策の参考となりうる提言である。
○提言全文 優秀賞全文[PDFファイル/2MB]
特別賞
○タイトル エストニアと長崎県の比較に見る長崎県の未来
○サブタイトル 無し
○氏名 大場 一介
【提言要旨】
長崎県と同程度の人口をもつ地域(国)を国内だけではなく、海外に求めて、人口や地勢等において共通する部分がないか、そして参考にできる取り組みがその地域(国)にないかを調べることは、より多くの選択肢を持つことになる点で有用である。
そこで、長崎県と同程度の人口をもつ地域を海外で探すと、バルト三国のエストニアという国に行き着く。両地域を比較すると、島の数が多いという地勢のほかに、29歳以下の人口の少なさ、転出による人口減少と労働力不足が懸念されている点で状況が類似している。
人口減少への取り組みとして、エストニアは、政府主導で社会のデジタル化にかかる多様な取り組みを実施している。その中で、長崎県が参考にできる取組として、e-スクール(学習情報や宿題のオンライン化)などを挙げる。
次に、産業連関表と県民(国民)経済計算を用いて、長崎県において情報通信業が重要であることの裏付けを行う。つまり、今後、長崎県において、最も伸びしろのある産業は、「情報通信」であり、輸移出率を伸ばす余地のある産業でもあることを長崎県産業連関表により検証し、県民(国民)経済計算を用いた生産額の比較でも、長崎県にとって、情報通信業は、取り組む余地のある産業であることを述べる。
また、時間当たり労働生産性を上昇させるためには、エストニアのような行政のデジタル化による労働時間の減少等の新たな取り組みが必要であること、さらに製造業を例に挙げると、風力発電機などのニッチな高付加価値産業で競争力を持つことや、ブランド価値のある企業の本社誘致、バイオ・医療産業などの知識集約型産業の誘致が、労働生産性の向上に有効であることを示す。
そして、労働生産性の高い国々に対し、日本、そして長崎県は外国人住民の数が極端に少なく、今後、人口減少に伴う頭脳流出を補完するためには、海外からの頭脳労働者の受け入れに対する取り組みが重要である。
今後目指すべき長崎県の未来の姿は、情報リテラシーに通じた県民と、海外からの頭脳労働者が協働する、情報通信業により労働生産性と生産額(付加価値)の向上を目指す社会であると考える。
【講評】
人口規模が本県に近いエストニアとの詳細な比較により、本県が取り組むべき内容を導き出している点が評価された。国家と地方自治体であるため違いはあるが、IT先進国のエストニアでのICT活用や情報通信業の重要性について、各種データを用いて詳細に分析しており示唆に富んだ内容も含んでいるため、今後の本県の政策の参考となりうる提言である。
○提言全文 特別賞全文[PDFファイル/1MB]
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