10月26日は「柿の日」。
1895年(明治28年)、正岡子規が奈良旅行の際に、「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という有名な句を詠んだとされることから、全国果樹研究連合会カキ部会が柿の販売促進を目的に定めたそうです。
この句には「法隆寺の茶店で憩ひて」という前書きがついています。
「法隆寺の茶店で奈良特産の柿を頬張っていたら、どこからか鐘の音が聞こえてきた」という何の変哲もないありふれた句のように思われます。ちょっと失礼な言い方ですが・・・。
しかし病気療養後、故郷の松山から帰京する途中に奈良を訪れた子規は、澄み切った秋空、色づいた柿、響きわたる鐘の音といった古都の風情にふれることで、言いようのない心の安寧を得たのではないでしょうか。
病気になって初めて健康であることのありがたさがわかるように、一時的な快復だったしても、そのとき子規は「生きている」いう実感をつかんだのではないかと思います。
禁教の高札撤廃後、誰はばかることもなく信仰を続けることができようになった潜伏キリシタンたち。ある者は潜伏時代の独自の信仰形態を守り続け、ある者はカトリックに復帰して穏やかな祈りの生活を手に入れたのでした。
かすかな物音に驚いて祈りをやめることもなく、静かな気持ちで納戸神に手をあわせる人々、自らで重い資材を運びながら教会堂の建設に尽力した人々。
彼らもまた同じように「生きている」ことの素晴らしさをかみしめていたのでしょうね。
遠くの世界に行ってしまった友のことを想うちょっとセンチメンタルな季節ですが、音楽にふれるもよし、絵画を味わうのもよし、「生きている」ことを実感しながら心豊かな秋を楽しみたいものです。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)
長崎と天草地方のキリスト教関連歴文化遺産群ウェブサイト(おらしょ-こころ旅-)・おらしょ通信(vol-326)
より(毎週月曜日更新)
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