障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例
令和3年度活動報告書 令和4年6月 長崎県福祉保健部障害福祉課

はじめに
本県では、障害のあるなしにかかわらず、誰もが社会を構成する一員として、あらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指して、障害のある人に対する差別を禁止し、差別をなくすための施策を推進するための事項を定めた、「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を制定しています。
この報告書は、条例全面施行から8年目にあたる令和3年度、1年間の相談活動実績をまとめたものです。
相談窓口にどのような相談が寄せられ、問題の解消のために何が求められているのかを県民の皆様に知っていただくことで、障害のある人に対する差別をなくし、共生社会を実現するためにできることは何なのか考えていただくきっかけになればと思います。
 
目次
Ⅰ 条例の仕組み
1 条例の目的
2 障害のある人とは
3 差別の禁止
4 相談体制
5 問題解決のための調整機関
6 問題解決までの流れ

Ⅱ 相談活動の実績
1 相談者
2 相談方法
3 相談分類
4 相談分野
5 対応方法
6 活動回数と活動期間
7 連携
8 圏域別の相談件数

Ⅲ 相談事例

Ⅳ 障害理解・啓発活動

Ⅰ 条例の仕組み                                  
1  条例の目的
この条例は、障害や障害のある人に対する県民の理解を深め、障害のあるなしにかかわらず、誰もがあらゆる社会活動に参加できる共生社会の実現を目指しています。
 
2 障害のある人とは
身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病を原因とする障害など心身の機能の障害があり、これらの障害と社会的障壁によって、継続的又は断続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人を「障害のある人」と規定しています。 
         
3 差別の禁止
不均等待遇を行うこと
不均等待遇とは、障害や障害に関することを理由として、区別、排除、制限したり、条件を課すなど、障害のない人と異なる取扱いをすることです。特別な事情がないのに不均等待遇を行うことは差別に当たります。

合理的配慮を怠ること
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同等に権利を行使したり、同等の機会や待遇を受けるために必要な現状の変更や調整を過度な負担が生じない範囲で行うことです。障害のある人の求めがあった場合に、特別な事情がないのに合理的配慮を怠ることは差別に当たります。

4 相談体制
差別に関する相談窓口として、各市町に地域相談員を169名(令和4年3月31日現在)、長崎県障害福祉課内に広域専門相談員を2名配置しています。相談を受けた地域相談員と広域専門相談員は、当事者それぞれの話を十分に聴き、問題解決に向けて取扱方針を決定し、その方針に基づき連携して対応します。地域相談員は、各市町が委嘱している身体障害者相談員・知的障害者相談員・精神保健福祉相談員で承諾が得られた方に委託しています。

地域相談員の内訳(令和4年3月31日現在)
長崎市10名(身体6名、知的4名)
佐世保市17名(身体13名、知的4名)
島原市4名(身体1名、知的3名)
諫早市11名(身体6名、知的3名、精神2名)
大村市6名(身体2名、知的2名、精神2名)
平戸市8名(身体4名、知的4名)
松浦市11名(身体8名、知的3名)
対馬市9名(身体4名、知的5名)
壱岐市10名(身体7名、知的3名)
五島市14名(身体8名、知的5名、精神1名)
西海市10名(身体6名、知的4名)
雲仙市13名(身体6名、知的7名)
南島原市17名(身体9名、知的6名、精神2名)
長与町7名(身体5名、知的2名)
時津町3名(身体2名、知的1名)
東彼杵町1名(身体1名)
川棚町4名(障害区分なし)
波佐見町3名(身体2名、知的1名)
小値賀町0名
佐々町2名(身体1名、知的1名)
新上五島町9名(身体5名、知的2名、精神2名)
相談員数計169名(身体障害者相談員96名、知的障害者相談員60名、精神障害者相談員9名)

5 問題解決のための調整機関
地域相談員や広域専門相談員による問題解決が困難な場合は、障害のある人やその関係者からの申し立てにより、「障害のある人の相談に関する調整委員会」(以下、「調整委員会」という。)が助言やあっせんを行います。調整委員会は、申立てのあった事案について専門的な見地から公正・中立な判断をし、当事者双方の事情や意見を検証して、解決に向けた助言やあっせんを行います。

6 問題解決までの流れ
差別に関する問題が発生したら、県の相談窓口である地域相談員又は広域専門相談員が相談を受け付けます。相談員が調査や調整等を行い問題の解決を図ります。相談員による解決が困難な場合は、申立てにより調整委員会による助言・あっせんを行い解決を図ります。特に悪質な差別があったと思われる事案を解決するための手段として、知事による勧告・公表を用意しています。

Ⅱ 相談活動の実績                                
1 相談者
相談者と障害区分
(本人)肢体不自由4件、視覚障害5件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害6件、発達障害4件、その他3件、計25件
(家族)肢体不自由1件、知的障害3件、精神障害1件、その他2件、計7件
(支援関係者)視覚障害2件、計2件
(友人・知人)その他1件、計1件
(その他)精神障害2件その他2件、計4件
(計)肢体不自由5件、視覚障害7件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害4件、精神障害9件、発達障害4件、難病0件、その他8件、計39件
※区分については、相談者に確認して分類しています。

相談者は、障害のある「本人」が25件(64%)と最も多くなっています。次いで、「家族」が7件(18%)、「支援関係者」が2件(5%)でした。「友人・知人」が1件(3%)でした。「その他」の4件は(10%)は、行政職員からの相談でした。
障害区分では、「肢体不自由」5件、「視覚障害」7件、「聴覚障害」1件、「内部障害」1件を合計した「身体障害者」が14件と最も多く、次いで「精神障害」が9件、「知的障害」、「発達障害」が4件、「その他」の8件は、障害全般に関わる相談でした。「難病」がある人からの相談はありませんでした。

2 相談方法
障害のある人に対する差別に関する相談は、電話、面談、手紙、ファックス、メールにより受理しています。相談は、障害の特性や状況に合わせて相談者が伝えやすい手段でできるようにしていますが、電話による相談が25件と大半を占めています。
受付時の相談方法
電話25件、面談5件、手紙0件、ファックス1件、メール8件、計39件

3 相談分類
令和3年度、1年間に相談窓口に寄せられた相談は39件でした。結果として、不均等待遇や合理的配慮の欠如に該当する相談は1件でした。調整委員会への申立てが行われた事案は、ありませんでした。
相談分類別の件数
主訴として、不均等待遇6件、合理的配慮の欠如7件、不適切な行為4件、不快・不満11件、意見・要望1件、問い合わせ9件、傾聴事案1件、計39件でした。結果として、不均等待遇0件、合理的配慮の欠如1件、不適切な行為2件、不快・不満11件、意見・要望4件、問い合わせ13件、傾聴事案8件、計39件でした。
※相談分類項目の定義 
「不適切な行為」条例の不均等待遇、合理的配慮の欠如には該当しないが、差別的・不適切な行為があったと考えられるもの。
「不快・不満」差別や不適切な行為があったとは判断できないが、相談者が差別と捉えて不快・不満の訴えをしているもの。
「意見・要望」条例や福祉制度、県への意見や要望に類するもの。
「問い合わせ」条例や福祉制度、合理的配慮の対応方法に関する問い合わせやリーフレットの提供依頼など。
「傾聴事案」相談者自身の気持ちを聞いてもらいたいというものや、対応不要の意思表示があったもの。

相談分類と障害区分
主訴
(不均等待遇)肢体不自由1件、知的障害1件、精神障害1件、発達障害3件、計6件
(合理的配慮の欠如)視覚障害2件、聴覚障害1件、知的障害2件、その他2件、計7件
(不適切な行為)肢体不自由1件、精神障害1件、発達障害1件、その他1件、計4件
(不快・不満)肢体不自由2件、視覚障害3件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害3件、その他1件、計11件
(意見・要望)視覚障害1件、計1件
(問い合わせ)肢体不自由1件、視覚障害1件、精神障害4件、その他3件、計9件
(傾聴事案) その他1件、計1件 
(計)肢体不自由5件、視覚障害7件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害4件、精神障害9件、発達障害4件、難病0件、その他8件、計39件
結果
(不均等待遇)計0件
(合理的配慮の欠如)知的障害1件、計1件
(不適切な行為)視覚障害1件、その他1件、計2件
(不快・不満)肢体不自由1件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害1件、精神障害1件、発達障害4件、その他2件、計11件
(意見・要望)肢体不自由2件、視覚障害1件、精神障害1件、計4件
(問い合わせ)肢体不自由2件、視覚障害者2件、精神障害5件、その他4件、計13件
(傾聴事案)視覚障害3件、知的障害2件、精神障害2件、その他1件、計8件
(計)肢体不自由5件、視覚障害者7件、聴覚障害1件、内部障害1件、知的障害4件、精神障害9件、発達障害4件、難病0件、その他8件、計39件

主訴として「差別に関する相談(特定相談)」で、「不均等待遇」に分類される相談は、障害区分の「肢体不自由」で1件、「知的障害」で1件、「視覚障害者」で1件、「精神障害」で1件、「発達障害」で3件、の計6件ありました。「合理的配慮の欠如」に分類される相談は「視覚障害」で2件、「聴覚障害」で1件、「知的障害」で2件、「その他」で2件の計7件でした。事実確認などの結果としては、「問い合わせ」が各13件と最も多く、「不快・不満」が11件、「傾聴事案」8件、「意見・要望」が4件、「不適切な行為」が2件、「合理的配慮の欠如」が1件でした。


4 相談分野
条例では、日常生活や社会生活での10の個別分野における差別行為の禁止を特に定めています。
(差別の禁止が規定されている10の個別分野)
福祉サービスの提供、医療の提供、商品及びサービスの提供、労働及び雇用、教育、建築物の利用、交通機関の利用、不動産取引、情報の提供等、意思表示の受領
相談分野と障害区分は、主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の13件を相談の分野で分類したものです。

相談分野と障害区分
(福祉サービスの提供)計0件
(医療の提供)計0件
(商品及びサービスの提供)計0件
(労働・雇用)知的障害1件、計1件
(教育)肢体不自由1件、計1件
(建築物の利用)その他1件、計1件
(交通機関の利用)発達障害3件、計3件
(不動産取引)計0件
(情報の提供等)視覚障害2件、知的障害2件、計4件
(意思表示の受領)聴覚障害1件、その他1件、計2件
(その他)精神障害1件、計1件
(計)肢体不自由1件、視覚障害2件、聴覚障害1件、内部障害0件、知的障害3件、精神障害1件、発達障害3件、難病0件、その他2件、計13件

10分野別の相談件数
福祉サービスの提供0件、医療の提供0件、商品及びサービスの提供0件、労働及び雇用1件、教育1件、建築物の利用1件、交通機関の利用3件、不動産取引0件、情報の提供等4件、意思表示の受領2件、その他1件、計13件。
障害区分ごとに、どのような分野の相談があったかをみると、障害区分の「肢体障害」がある人からの相談1件は、「教育」でした。「視覚障害」がある人からの相談2件は、「情報の提供等」でした。「聴覚障害」がある人からの相談1件は「意思表示の受領」でした。「知的障害」がある人からの相談3件は、「労働及び雇用」が1件、「情報の提供等」が2件でした。「精神障害」のある人からの相談1件は、「その他」の分野でした。「その他」の1件については、相手方が特定できない一般私人の発言内容についての相談でした。「発達障害」のある人からの相談3件は、「交通機関の利用」についてでした。「障害の有無が不明な方」からの2件は、「建築物の利用」、「意思表示の受領」が各1件でした。
10分野の分野別の相談件数をみると、「情報の提供等」の分野が4件で最も多く、次いで「交通機関の利用」が3件、「意思表示の受領」が2件、「労働及び雇用」、「教育」、「建築物の利用」、「その他」の分野が各1件となっています。

5 対応方法
対応と相談分野
主訴が「不均等待遇」・「合理的配慮の欠如」の「差別に関する相談(特定相談)」の13件の対応を相談分野別に分類したものです。
(相手方との調整)意思表示の受領1件、計1件
(事実確認等)教育1件、交通機関の利用2件、情報の提供等3件、計6件
(関係機関引き継ぎ)0件
(助言)0件
(相談窓口の紹介)計0件
(情報提供・資料送付)建築物1件、計1件
(傾聴主体)情報の提供等1件、その他1件、計2件
(その他)労働及び雇用1件、交通機関の利用1件、意思表示の受領1件、計3件
(計)福祉サービスの提供0件、医療の提供0件、商品及びサービスの提供0件、労働及び雇用1件、教育1件、建築物の利用1件、交通機関の利用3件、不動産取引0件、情報の提供等4件、意思表示の受領2件、その他1件、計13件 

差別に関する相談についての対応は、全体として「事実確認等」が6件、「その他」が3件、「傾聴主体」が2件でした。「相手方との調整」・「情報提供・資料送付」が各1件でした。「その他」の3件は、相談者の要望を相手方へ伝達したものでした。「相手方との調整」を行った相談分野は「意思表示の受領」で、「事実確認等」は「情報提供等」が3件、「交通機関の利用」が2件、「教育」が1件でした。

対応と相談分類(結果)の関係
次の表は、相談に対する対応状況について、相談分類と対応の関係を表したものです。相談者の同意に基づき、相手方や関係者から聴き取り調査を行い、双方の意向を確認した後に条例における対応方針を決定し、調整や対応を行っています。
(相手方との調整)不快・不満1件、計1件
(事実確認等)合理的配慮の欠如1件、不適切な行為1件、不快・不満4件、意見・要望2件、計8件
(関係機関引継ぎ)不適切な行為1件、意見・要望1件、問い合わせ8件、傾聴事案1件、計11件
(助言)計0件
(相談窓口の紹介)不快・不満2件、問い合わせ2件、計4件
(情報提供・資料送付)不快・不満1件、問い合わせ2件、計3件
(傾聴主体)傾聴主体7件、計7件
(その他)不快不満3件、意見・要望1件、問い合わせ1件、計5件
(計)合理的配慮の欠如1件、不均等待遇0件、不適切な行為2件、不快・不満11件、意見・要望4件、問い合わせ13件、傾聴事案8件、計39件

「問い合わせ」13件についての対応は、「関係機関引き継ぎ」が8件、「相談窓口の紹介」・「情報提供・資料送付」が各2件、「その他」が1件でした。「不快・不満」11件について  の対応は、「事実確認等」が4件、「その他」が3件、「相談窓口の紹介」が2件、「相手方との調整」・「情報提供・資料送付」が各1件でした。「傾聴事案」8件についての対応は、「関係機関引継ぎ」が1件、「傾聴主体」が7件でした。「意見・要望」4件についての対応は、「事実確等」が2件、「関係機関引継ぎ」、「その他」が各1件でした。「不適切な行為」2件についての対応は、「事実確認等」・「関係機関引継ぎ」が各1件でした。「合理的配慮の欠如」1件についての対応は、「事実確認等」が1件でした。

6 活動回数と活動期間
対応ごとの活動回数
(相手方との調整)1件、活動回数38回、平均回数38.0回
(事実確認等)8件、活動回数57回、平均回数7.1回     
(関係機関引継ぎ)11件、活動回数46回、平均回数4.2回
(助言)0件、活動回数0回、平均回数0.0回
(相談窓口の紹介)4件、活動回数10回、平均回数2.5回
(情報提供・資料送付)3件、活動回数8回、平均回数2.7回
(傾聴主体)7件、活動回数13回、平均回数1.9回
(その他)5件、活動回数19回、平均回数3.8回
(合計)39件、活動回数191回、平均回数4.9回
活動回数(対応回数)は、事案や対応方法によって大きな差がありますが、平均すると4.9回となりました。「相手方との調整」や「事実確認等」「関係機関引継ぎ」などの対応は、複数の機関と連携して対応にあたることが多いため活動回数(対応回数)が増加する傾向がありました。また、相談件数は昨年度(22件)より17件増加でした。
相談受付から解決までの活動期間については、相談を受けた当日に解決したものが18件と最も多く、2日間が3件、3日間が4件、3日間が4件、5日間が2件、6日間が3件、8日間が3件、12日が1件、15日間が1件、23日間が1件、26日間が1件、29日間が1件、174日間が1件でした。

7 連携
他機関との連携
問題解決のために、必要な場合には、他の機関等と連携を図って対応を行っています。対応をしていく中で、他機関等と連携し解決に至った件数は、17件でした。主な連携先は、県の担当課、国・市町の関係機関、病院などです。複数の機関と連携を図った事案もありました。

地域相談員との連携
相談活動
地域相談員が「差別に関する相談」を受けた際は、広域専門相談員と連携して問題の解決を図っています。地域相談員が相談を受けて、広域専門相談員が対応を引き継いだ相談が2件、地域相談員自身の相談で広域専門相談員に対応を依頼した事案は0件でした。

「地域相談員対応マニュアル」の改訂
平成26年に作成した「地域相談員対応マニュアル」を改訂いたしました。平成26年度作成時は、想定される相談事例のみを掲載していましたが、改訂時には、差別に当たらない事例も同時に掲載いたしました。

相談員通信
地域相談員と広域専門相談員の連携の一助として、相談員通信を年に1回発行しています。内容は、障害者芸術祭、「障害者差別解消法」の改正案、研修会の様子などについてでした。

8 圏域別の相談件数
相談者の居住地域を障害保健福祉圏域(10圏域)で分類しています。
圏域別相談件数
長崎圏域16件、西彼圏域0件、県央圏域5件、佐世保圏域4件、県北圏域2件、県南圏域1件、五島圏域3件、上五島圏域1件、壱岐圏域0件、対馬圏域0件、その他7件、合計39件

圏域別の相談件数については、「長崎圏域」が16件と最も多く、「県央圏域」が5件、「佐世保圏域」が4件、「五島圏域」が3件、「県北圏域」が2件、「県南圏域」・「上五島圏域」が1件、「その他」(不明)が7件でした。

Ⅲ 相談事例
寄せられた相談について、個人情報保護の観点から、内容を一部変更するなど再構成をしたうえで、事例として掲載しています。

1 労働及び雇用  就労先でのいじめ、虐待について
相談者 精神障害があるAさん
Aさんは、一般就労で会社に就職しました。自分のことをもっと知ってほしいと思い、精神障害者手帳を所持していることを直属の上司に伝えたところ、叱責されたり、障害者を理由に給料を出せないなど差別的な発言を受け、とても傷つきました。障害者に対しての虐待だと思うので、このようなことをやめるよう就労先を指導してほしいです。
(対応と結果)
相談内容を伺っただけでは、障害を理由とした差別の問題の有無は判断できず、また、職場内での障害のある人への虐待も考えられます。Aさんは就労先へ指導してほしいと希望されており、Aさんと相談の上、適切な関係機関へ引き継ぐこととなりました。
(広域専門相談員から)
上司からの叱責や言動は、Aさんが精神的に苦痛を感じていることから、心理的虐待の可能性もあるようです。また、「給料を出せない」という発言は経済的な虐待も考えられます。
障害者の虐待には、以下の5つのタイプがあります。「身体的虐待」(殴る、蹴る、部屋に閉じ込める等)、「心理的虐待」(怒鳴る、「バカ」などの言葉を浴びさせる等)、「経済的虐待」(本人の給料や年金などを渡さない等)。上記のような障害のある人への虐待は、障害のある人の尊厳や生命を脅かすものです。虐待に関する相談を受けた場合は、市町の障害者虐待センターまたは、長崎県擁護センターへご相談ください。事業主と事業者全体で、職員が障害者全体で、職員が障害者の人権や障害者虐待への理解を深め、特性に応じた配慮や接し方を学ぶ機会が必要です。

2 情報の提供 自治体からの書類の送付について
相談者 視覚障害のあるBさん
Bさんは、自治体から書類が届きましたが、視覚障害があるため書類を読むことができず、ヘルパーさんに読んでもらったところ、担当課へ予約して手続きが必要ということが分かりました。Bさんは自治体へ連絡し、担当課へ手続きしたいが予約の電話番号が分からないと相談しましたが、「ヘルパーさんに頼んでください」という回答のみで、何も教えてくれませんでした。ヘルパーさんの拘束時間は決まっているので、時間内に予約の電話までは頼みづらく、どうしたらよいのか分からず、困ってしまいました。
(対応と結果)
自治体の担当課へ対応状況について確認したところ、担当課は、視覚障害のある人の中で、点字登録者に対しては手続きの方法や連絡先の電話番号等を点字表記し送付していることが判明しました。しかし、相談者は点字を読むことができず、点字登録を行っていませんでした。県から再度、担当課にその旨を伝え、相談者の要望を踏まえた配慮をしていただくよう検討を依頼しました。その結果、担当課と相談者が直接話し合い、検討を重ねた結果、相談者は予約を取り手続きをすることができました。
(広域専門相談員から)
合理的配慮の提供は、合理的配慮を求める側と提供する側が、お互い話し合う事で、どのような措置を講ずるかを決定していくことが求められます。本件では、自治体の担当課は相談者に対し、「ヘルパーに頼んでください」という提案をしましたが、相談者に納得していただける代替案であったったのか、もっと歩み寄る必要があったと考えられます。合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。障害のある人の状態や要望を良く聞き、理解した上で、より良い方法で配慮が提供されるよう、建設的対話を通して配慮の方法をすり合わせていくことが必要です。


2 情報の提供 書類の手続きについて
相談者:知的障害のあるCさん
Cさんは知的障害があり、漢字を読むことができないため、事業者へルビをつけて文書を送
付してほしいと相談しました。事業者から手続きについての書類が届きましたが、ルビ付け
がなかったため、Cさんは郵便物に気づきませんでした。親族が訪問し書類に気づき、手続
きができましたが、訪問していなければ、手続きをすることができませんでした。
(対応と結果)
事業者へ対応状況を確認したところ、Cさんからの申し出があったにも関わらず、ルビ付けでの文書を送付していなかったことが判明しました。事業者へ合理的配慮の提供義務について説明を行い、対応を依頼しました。今後、Cさんへ文書を送付する際は、ルビ付けの文書での対応を行うと回答を得ました。

(広域専門相談員から)
事業者は、障害のある人からの申し出に対して、合理的配慮の提供や必要な支援が欠如して
いる状況にありました。合理的配慮とは、障害のある人の求め又は家族の求めに応じて、障
害のない人と同等の機会を確保するために、過度な負担を生じない範囲で現状の変更又は
調整を行うことと規定しています。後日、Cさんより「別の事業者にルビ付けの書類の送付をお願いしたところ、急だったため、手書きではありましたがルビを付けて文書が送付され、助かりました。」との報告がありました。突発的に起こる事態の際にも、障害特性を踏まえた合理的配慮は大切です。短期間で行わなければならない等の理由で求められている配慮ができない場合は、代替案の提案が必要です。

3.意思表示の受領 店舗カウンタースタッフの対応について
相談者:聴覚障害のあるDさん 
Dさんは店舗へ買い物に行きクレジットカードを作ることになりました。手続きの際、カウンターのスタッフへ「十分な会話ができないので、筆談でお願いします。」と何度も伝えましたが、担当者は説明書をカウンター上に提示して、説明部分を指差しすることもなく音声での説明を繰り返しました。聴覚に障害のある自分に対するスタッフの対応に驚き、大変不愉快な思いをしました。責任者からスタッフに対して、障害のある人に対しての理解や対応についてしっかりと指導してほしいです。
(対応と結果)
Dさんは相手方との調整までは望まず、再発防止を求めていました。そのため店舗を訪れ、条例の趣旨と合理的配慮の提供義務について説明し、また、障害及び障害のある人に対しての理解や障害の特性に配慮した丁寧な対応を心掛けてもらえるようお願いしました。後日、店舗では、条例のリーフレットを使用し、お客様は健常者だけではないということの認識と、障害と障害のある人への理解・適切な対応ができるよう教育が行われました。

(広域専門相談員から)
聴覚障害のある人が必要な情報を入手し、自分の意思を伝えられるようにするには、様々な配慮が必要です。また、意思表示をする場合、相手方は、自らの都合でコミュニケーションの手段を制限したり、コミュニケーションそのものを拒否したりすることなく、障害のある人の立場になって、真摯に対応する必要があります。聴覚障害のある人は、外見上から障害があるかどうか分かりにくいため、本件のように、障害のある人から筆談で対応してほしいと申し出があった場合は、聴覚に障害のある人と認識し、本人の申し出を尊重しながら、分かりやすく丁寧な配慮が大切です。

4 その他(10分野以外)の相談
相談者 精神障害のあるEさん
Eさんのツイッターに障害のある人を差別するような、誹謗中傷の書き込みがありましたEさんは、相手方を訴えたいと考えています。

(対応と結果)
Eさんの話を傾聴し、ツイッターに差別的な書き込みをされたことは、非常に残念なことだ
が、私人間の問題については、条例による対応は難しいことを説明し、適切な相談窓口の紹
介を行いました
(広域専門相談員から)
条例では、何人も障害のある人に対して差別してはならないと規定しています。しかしなが
ら、事業者等の社会的枠組みが介在しない私人間の問題については、条例による調整の対象
とすることは難しく、傾聴にとどめることを基本としています。相談内容によって、適切な
相談窓口を紹介したり、必要な支援が受けられるよう関係機関に対応を引き継いでいます。
インターネットには、掲示板やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などコミュニケーションの輪を広げる便利な機能があり、その利用が進む一方で、他人の人権を侵害してしまう事件が発生しています。インターネットを利用する時は、直接人と接する時と同じようにルールやモラルを守り、相手の人権への配慮に心掛けると共に情報セキュリティ対策をとることが大切です。

Ⅳ.障害理解・啓発活動                                 
1.心の輪を広げる障害者理解促進事業
  県では、毎年12月3日から9日までの『障害者週間』に合わせ、内閣府との共催事業として、小学生、中学生、高校生・一般の各部門で、障害のある人とない人の心のふれあい体験を綴った作文の募集や、小学生、中学生の部門で「障害の有無にかかわらず誰もが能力を発揮して安心して生活できる社会の実現」をテーマにしたポスターの募集を行っています。ご応募いただいた多くの作品の中から入賞者には、表彰を実施するとともに、受賞者の作品集の作成を行い、学校や関係機関等へ送付しました。またホームページにも入賞作品の掲載を行いました。

2.「障害者差別と配慮の事例集」の作成
  どのような言動が差別になりえるのかを県民の皆様に理解していただくために、「障害者差別と配慮の事例集」を作成しました。作成した事例集は、各市町、関係機関、地域相談員等に配布し、ホームページにも掲載を行いました。事例集には、長崎県内の障害のある人やそのご家族から実際に相談のあった事例、また差別のない社会に向けて、私たちはどうすればよいのかを考えることを目的に、配慮の考え方も併せて掲載しました。

3.県政世論調査の結果と県政出前講座の実施
  県では、令和3年度に長崎県内に居住する満18歳以上の方を対象に、県政世論調査を行ないました。その結果「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」、「合理的配慮」の認知度はいずれも約4割程度でした。
年齢別で見たところ「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」についての認知度は、『80歳以上』が最も多く、年齢の上昇とともに認知度が上がる傾向にあることが分かりました。それに比べ、「合理的配慮」の認知度は、『20歳代』が最も多く、年齢の上昇とともに認知度は下がる傾向にあることが分かりました。
県では障害への理解促進の取組の一環として出前講座を実施しています。この講座内では、「心のバリアフリー」についての動画をもとに、誰もが安心して暮らせる共生社会の実現には、『他人事ではなく、自分事として相手の立場に立って行動することが大切であること』をお伝えしており、令和3年度は、2回開催しました。県政出前講座の申込は県民センターで受付けております。
 
おわりに
本県では、平成26年4月1日に「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」を施行し、条例施行後8年目となる令和3年度は、前年度の活動経験も踏まえ、相談活動や条例の普及啓発に努めてきました。
また、国においては、平成28年4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、障害者差別解消法)」が施行され、その後法律の見直しが検討され、令和3年5月、「障害者差別解消法」の一部を改正する法律が、成立しました。
県条例では民間事業者に対して、合理的配慮の提供が義務付けられていますが、この改正によって、障害者差別解消法でも義務化されることとなります。また、行政機関相互の連携の強化を図り、障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化することとされており、法律の公布日から3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
本県の条例もこの法律も、全ての県民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現という目的は同じです。
さらに令和3年度は、東京2020パラリンピックが開催されました。この開催を通じて、世界中から参加したアスリートのパフォーマンスにより、共生社会の実現に向け、多くの皆様が障害について考える絶好の機会になったのではないでしょうか。
今後も相談制度の適切な運営を図るとともに、法律と併せて、条例の更なる普及啓発に努めてまいります。


相談・問合せ先
長崎県福祉保健部障害福祉課 広域専門相談員  
〒850-8570 長崎市尾上町3-1
電話 (095)895-2450
ファックス (095)823-5082
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