閉会中の活動 令和2年度分

離島・半島地域振興特別委員会

現地調査

委員会名 離島・半島地域振興特別委員会
目的 離島・半島地域振興対策、有人国境離島法対策、離島地域航路・航空路対策 現地調査
日時 令和2年11月5日(木)~6日(金)(2日間)
調査先 佐世保市宇久町、小値賀町
出席委員 委員長 山下 博史、副委員長 堤  典子、委員 坂本 智徳、徳永 達也、堀江 ひとみ、山田 朋子、山本 啓介、大久保 潔重、大場 博文、石本 政弘
概要
1.有人国境離島法の雇用機会拡充事業採択事業者

 平成29年4月1日に施行された有人国境離島法の雇用機会拡充事業に採択された事業者の中から以下の3事業者を訪問し、事業の概要説明を受け、活用事例や今後の方向性等について意見交換を行った。

(1)あられ茶房(代表 柿田 裕哉)

●設立:平成29年10月
●住所:佐世保市宇久町平2426
●従業員数:2名(うちパート・アルバイト1名)
●事業内容:農産保存食料品製造事業
●概要:「地元農産物を使った商品開発、販売事業」
    宇久島で収穫した農産物(トマト)を特産品、お土産品として商品化し、販売することで宇久島の知名度アップを目指す。     (創業事業:H29年10月~H30年3月)
●取組内容:店舗・加工場改修費、設備費、店舗借入費、人件費、研究開発費
    (補助対象事業費:3,000千円、補助金額:2,250千円)

(2)ナゴパン(代表 澤田 礼子)

●設立:令和2年4月
●住所:佐世保市宇久町平2685-6
●事業内容:パン・菓子製造業
●概要:「手づくりなごみパン事業」
    宇久島内に手づくりパンの専門店がなく、県外の名店での修行経験を活かし、創業者の母の故郷でもある宇久へ移住し開業
    (創業事業:R2年4月~R3年3月)
●取組内容:施設改修、厨房設備の導入、広告宣伝経費等
    (補助対象事業費:6,000千円、補助金額:4,500千円)


《あられ茶房》

《ナゴパン》
(3)おぢか薬局(代表 松山 恵)

●設立:平成29年12月
●住所:小値賀町笛吹郷1760-1
●従業員:1名(うちパート・アルバイト1名)
●事業内容:処方箋調剤、医薬品・衛生材料等の販売 外
●概要:「島民の健康をサポートする小値賀町初の調剤薬局の開設」
    平成29年12月に薬店を開業したのち、令和元年11月、町内初の調剤薬局としてリニューアル。町内の薬剤分野における医療格差改善を図る。
    (事業拡大:R元年4月~R2年3月)
●取組内容:施設改修、錠剤分抱機、調剤管理システムの整備 外
    (補助対象事業費:16,000千円、補助金額:12,000千円)
●業者の主な意見

○雇用計画を立てているが、薬剤師(免許職)の雇用が難しい。
○設備工事等について、離島で対応できる業者が限られており、複数見積書の徴取が難しい。
○薬剤の在庫がない場合は、島外から取り寄せになるが、患者にご理解をいただいている状況。

2.宇久行政センター

 宇久行政センターから、「宇久島の概要・産業・観光」及び「有人国境離島法の雇用機会拡充事業活用状況」等について説明を受けた後、質疑応答を行った。

(1)宇久島の概要

●五島列島の最北端に位置し、人口は2,003人(R2.9月末現在)。
●本島が約24.9 km2、属島(寺島)が約1.4 km2、全体で約26.3 km2。
●平成18年3月31日に佐世保市に編入合併。島の約1/5が西海国立公園に指定。
●佐世保市総合医療センター宇久診療所、老人福祉関連2団体あり。
●小・中・高校1校。一貫教育に取り組んでおり、様々な活動を合同で実施。
●路線バス1社(第三セクター)、タクシー1社、レンタカー2社。
●福岡~宇久島のフェリー、佐世保~宇久島のフェリー・高速船あり。
●五島列島といえば教会が有名であるが、宇久島には教会がない。

(2)宇久島の漁業

●一本釣り漁業が主体で、網漁業が少ないのが特徴。アワビやサザエの採捕が盛ん。
●近年は海藻類・貝類の減少、漁業担い手の減少・高齢化等により、漁獲量・漁獲金額がともに減少。
<漁獲量158t(R1)←215t(H26)>
●藻場再生やブランド化、藻場回復のため食害動物駆除、種苗放流等に取り組んでいる。

(3)宇久島の農業

●畜産(和牛繁殖)農業が盛ん。89戸の畜産農家が約1,400頭の繁殖牛を飼育しており、島から年間約1,000頭の子牛が島外に送り出されている。(H31.4月現在)
●子牛の価格高騰で、繁殖農家にとって好景気が続いている。
●高齢化や後継者不足が深刻で、20、30歳代の若い担い手が数名程度しかおらず、島全体での飼養頭数の維持が困難な状況。

(4)宇久島の観光

●(一社)宇久町観光協会を中心として、風光明媚な自然を活かしながら、様々なしま体験ができる環境を整備することで、観光客の誘客を図っている。
●島民が特定有人国境離島地域社会維持推進交付金を活用して飲食店や宿泊施設を開設するなどし、雇用機会の拡充、地域の活性化を図っている。
●今後は、「ダイビング事業」や「修学旅行生の受け入れ」など、観光客増に向けた新しい事業を行なう予定。<観光客数19,027人(R1)←12,169人(H26)>

(5)有人国境離島法の雇用機会拡充事業活用状況

●平成29年度実績:1件
 飲食店開業(あられ茶房)
●平成30年度実績:3件
 民宿改修(民宿丸金荘)、加工所増築(黒潮鮮魚店)、オリーブ園創業(宇久オリーブアイランド事業)
●平成31年度実績:4件
 カフェ開業(エトワール)、民宿開業(中村屋)、飲食店増築(おおきに)、オリーブ園(※継続事業)
●令和 2年度実績:5件
 パン屋開業(澤田礼子)、旅館改修(井原旅館)、泊所開業(えびす丸)、かんころもち製造(㈱丸勝興産)

 オリーブ園(※継続事業)

(6)課題・問題点

●人口減少、少子高齢化・過疎化の進行
○最近では、有人国境離島法の雇用機会拡充事業が人口の社会増に貢献している。
<人口 1,953人(H31)←3,323人(H18佐世保市との合併時)←5,840人(S55)>
<生産年齢人口 794人(H31)←1,576人(H17)←3,619人(S55)>
<人口比率 20歳未満:7.77%(H27)←46.43%(S40)、65歳以上:49.75%(H27)←10.08%(S40)>

●宇久島の認知度、知名度
○各地への訪問、宣伝、誘客営業、特産品販売等イベント参加、HP・SNSによる宇久島の紹介、映画会社等へのロケ地としての売り込み等の取り組みをしている。

●動物(イノシシ)被害
○これまで宇久島にはイノシシはいなかったが、数年前に確認されてからは爆発的に数が増え、1年間で500頭近く捕獲されている。

《調査時の様子》
3.小値賀町役場

 小値賀町役場から、「小値賀町の概要・産業、「野崎島の集落跡」及び「松くい虫の被害状況」等について説明を受けた後、質疑応答を行った。

(1)小値賀町の概要

●五島列島の北端部に位置し、人口は2,344人(R2.9月末現在)。
●小値賀本島を中心に17の島で構成されており、総面積は25.46 km2。
●大正15年に笛吹・前方・柳の3村が合併して小値賀村となり、昭和15年に町制を施行、令和2年に80周年となった。島のほとんどが西海国立公園に指定。
●福岡~小値賀のフェリー、佐世保~小値賀のフェリー・高速船あり。
●第1次産業が中心。従事者が多いのは農業(19.7%)、漁業(13%)
●漁業者は、魚価の低迷・燃油の高騰・磯やけ問題等が影響し、減少傾向。後継者育成制度や漁船の燃油補助等の振興策を実施している。
●農業は、一般財団法人「小値賀町担い手公社」での後継者育成事業などが効果を表し始め、基幹産業として振興されている。
●人口は、S35年の国勢調査では1万人台であったが、約55年間で7,716人(75.1%)の減少。65歳以上の人口は、昭和35年の870人に対し、平成17年1,279人で407人(47%)の増加。
<人口 2,560人(H27)←4,651人(H2)←10,276人(S35)>
<高齢化比率 45.6%(H27)←43.4%(H22)←39.2%(H17)←35.1%(H12)>

(2)基幹産業(農業及び漁業)について

●農業品目は、肉用牛、水稲を基幹作目として、エンドウ、メロンなどの施設園芸やブロッコリーなどの露地野菜が産地化され、規模拡大が図られている。
●肉用牛については、遊休農地の活用による放牧によって、飼養管理の省力化・低コスト化を図っているが、飼育戸数が減少しており規模拡大による増頭対策が課題。
●H13.3に設立された「小値賀町担い手公社」において、農業の担い手確保育成のための研修生の受入れや営農組織の育成、農地の斡旋等を行い、現在までに30名を受け入れ、うち16名が町内で就農している。
●漁業は、ブリ、ヒラス、イサキ等の一本釣りを中心に、曳縄、延縄、刺網等の漁船漁業が営まれている。
●漁協では、市場の評価が高い「イサキ」と「タチウオ」について、平成11~12年度にかけてブランド化に取り組み、イサキを「値賀咲」、タチウオを「白銀」とネーミングし、他産地との差別化を図り、魚価向上につなげた。
●小値賀町漁業協同組合は、経営基盤の強化を図るため、平成18年10月に宇久漁協と合併し、「宇久小値賀漁業協同組合」となった。

(3)野崎島の集落跡について

●野崎島の概要
○面積:7.36km2(町内では小値賀島(12.95 km2)に次ぐ大きさ)
○周囲:15.63km
○人口:1名(昭和30年代には700名ほどが暮らす)
○施設:沖ノ神嶋神社(創建704年)、旧野首教会(創建1908年)、
    野崎島自然学塾村(旧野崎小中学校舎を改修し1989年に供用開始)、
    野崎島ビジターセンター(2017年供用開始)、
    野崎島沖ノ神嶋神社神官屋敷(2017年公開開始)
○歴史
704年 島の北端にある王位石の麓に沖ノ神嶋神社が祀られる
1800年頃 長崎外海地方に暮らす潜伏キリシタンが野首、舟森地区に入植し、集落が形成される
1881年 舟森にはじめてカトリック教会が建立される(瀬戸脇教会)
1882年 野首にはじめてカトリック教会が建立される(初代野首教会)
1890年 野首に2代目の教会堂が建立される
1908年 野首に3代目の教会堂が建立される(現存する旧野首教会)
1989年 名称を旧野首教会と改め長崎県指定有形文化財となる
2007年 旧野首教会が「長崎の教会群」の資産の一つとしてユネスコの世界遺産暫定一覧表に記載
2011年 野崎島全域が「小値賀諸島の文化的景観」として国の重要文化的景観に選定される
2018年 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の資産「野崎島の集落跡」として世界文化遺産に登録される
●年度別入島者数の推移
 4,038名(2019年度)←4,971名(2018年度)←3,366名(2017年度)
 ←1,970名(2016年度)←2,056名(2015年度)
●活用事例
○長崎おぢか国際音楽祭教会コンサート
(毎年、一流の音楽家を招き開催されるクラシックコンサート)
○各種ツアーガイド、自然学塾村を活用したキャンプ など
●整備事業
○野崎島ビジターセンター整備事業(2017.4供用開始)
 野崎島が持つ歴史文化、自然環境を伝えるとともに、入島にあたるマナーを周知し、入島者の安全を守ることを目的として設置。常勤1名体制で運営している。
(総事業費49,353千円(施工管理業務委託料、工事請負費 外)
○野崎島沖ノ神嶋神社神官屋敷修復活用事業(2017.4公開開始)
 島の北端、沖ノ神嶋神社の神官一家が暮らした住宅を修復、公開している。奥に併設する遥拝所の祭壇は1832年に制作されたもの。神社の氏子となっていた潜伏キリシタンも時化で神社に参拝できない時はここから神社を拝んだ。
(総事業費75,209千円(設計委託料、施工管理業務委託料、工事請負費 外)
○野首集落石垣保全事業(2014) 総事業費4,104千円
○旧野首教会避雷設備設置事業(2014) 総事業費7,150千円

(4)松くい虫被害対策について

●平成29年度、夏場の高温少雨に起因する被害が主に島の東部で発生。
●平成30年度、被害が島東部で更に拡大。伐倒駆除を実施するとともに、西部への被害拡大を防止するため、島中央部にある「姫の松原」を中心に樹幹注入を施工した防除帯を造成し被害拡大防止対策を実施。
●令和元年度、「小値賀町松林等保全対策に係る検討会」を設置し、「小値賀町松林保全計画」を策定。「守るべき松林(20ha)、育てるべき松林(20ha)を重点的に保全する」ことなどを決定した。
●令和2年度、「守るべき松林(20ha)とその周辺の松林(25ha)」に薬剤の空中散布を実施。
●今後も「小値賀町松林保全計画」に基づき、松林区分に応じた対策を徹底する。

《調査時の様子》
4.その他

 上記のほか、台風9・10号による被災箇所(宇久平港、スゲ浜、フィッシャリーナ宇久)も調査した。