新聞報道

    

透明帯菲薄化処理による牛低品質受精卵の受胎率向上

2014年(平成26年)10月19日

家畜としての牛の「能力」には血統が大きく影響する。良い血統の子牛を効率良く生産するため、受精卵移植とその周辺技術の開発が進んでいる。中でも過剰排卵処理は優秀な牛から一度に多くの受精卵を得られる技術であり、得られた受精卵を複数の借腹牛に移植することで、短期間に同一血統の子牛を多く生産することが可能である。

しかし、過剰排卵処理で得られる受精卵の中には、品質の低い受精卵が少なからず含まれ、そうした低品質受精卵では受胎率の低さが問題となっている。

初期の受精卵は透明帯と呼ばれる殻に胚細胞が包まれている状態だが、着床・受胎するためには、分裂した胚細胞が透明帯の外に脱出しなければならない=写真参照=。この現象を「透明帯脱出」といい、低品質受精卵では起こりにくいことが分かっている。

低品質受精卵の受胎率向上対策として、物理的に透明帯に切れ目を入れ、透明帯脱出を補助する技術(透明帯切開処理)が開発されているが、特殊な器具と高度な技術が必要なため、実施可能な機関が限られている。

県農林技術開発センターでは、酵素(アクチナーゼ)を3%添加した培養液に受精卵を1~3分間浸することにより、透明帯を薄くする技術=菲薄(ひはく)化処理=を開発した。処理した低品質胚を用いて新鮮胚移植を行ったところ、受胎率は無処理区が27%であったのに対して、菲薄化区では47%と有意に高くなることが確認された=表参照=。

これらの結果により、酵素による透明帯の菲薄化処理は、切開処理よりも簡易に行うことが可能であり、低品質受精卵の受胎率向上に有効な技術であると考えられる。




    

       透明帯の外に出る胚細胞




透明帯菲薄化処理が新鮮胚移植の
受胎率に及ぼす影響
区 分 胚の品質
高品質胚 中品質胚 低品質胚


















無処理区 25 18 72% 29 16 55% 51 14 27%
菲薄化区 21 16 76% 23 14 61% 55 26 47%

※ 高品質胚:正常な発育段階で、変性部位が10%以下

  中品質胚:正常な発育段階で、変性部位が10~30%

  低品質胚:発育がやや遅れているものや、変性部位が30~50%

  

(畜産研究部門 大家畜研究室 主任研究員 井上哲郎)